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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)1919号 判決

控訴人 金澤慶明

右訴訟代理人弁護士 田辺尚

被控訴人 太田實

右訴訟代理人弁護士 森英雄

同 鈴木質

同 牧浦義孝

同 水地啓子

主文

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、一、五〇〇万円及びこれに対する昭和五五年一一月二七日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文と同旨の判決を求める。

二  被控訴人

「本件控訴を棄却する。」との判決を求める。

第二当事者の主張

一  控訴人の請求の原因

1  控訴人は、昭和四九年一一月初め頃、被控訴人との間において、控訴人が労務及び必要資金を出資し、被控訴人が必要資金を出資して、関西電力株式会社が滋賀県下において土地所有者に補償金を支払うことなく架設している特別高圧架空送電線下の土地所有者からその土地について賃借権の設定を受けるなどしたうえ、関西電力株式会社から線下補償金の支払いを受けて利益を挙げることを事業(以下「本件事業」という。)として行なう旨の契約(無名契約)(以下「本件契約」という。)を締結し、本件事業による利益若しくは損失の分配又は本件事業終了時における残余財産の分配については、控訴人及び被控訴人それぞれがした必要資金の出資の割合に応じて分配することとする旨を約した。

仮に控訴人と被控訴人との間において右のような本件事業による利益若しくは損失の分配又は本件事業終了時における残余財産の分配に関する合意がなされなかったとしても、本件契約は民法上の組合契約に類似するものであるから、民法六七四条及び六八八条二項を類推適用して、本件事業による利益若しくは損失の分配又は本件事業終了時における残余財産の分配は、控訴人及び被控訴人の各出資の価額に応じて行なわれるべきものである。

2  かくして、控訴人は、本件事業の必要資金として昭和四九年一一月に一、八〇〇万円及び五〇〇万円を、昭和五〇年三月に二〇〇万円を、同年五月に五〇〇万円をそれぞれ出資したのを始めとして、合計四、〇五六万〇、〇四二円を本件事業のために出資し、他方、被控訴人は、昭和四九年一一月以降に数回にわたって合計四、二五〇万円を本件事業のための必要資金として出資した。

3  そして、控訴人は、補償対象地についての賃借権の取得等、関西電力株式会社との補償交渉等の一切を訴外鶴間乕吉(以下「訴外鶴間」という。)及び訴外松井勘兵衛(以下「訴外松井」という。)に委任して行わせ、昭和五〇年五月二〇日頃までに滋賀県蒲生郡安土町所在の土地一筆ほか合計八筆の土地七、一七三・七一〇平方メートル(以下「本件補償対象地」という。)についての賃借権の取得費用等として五、六五〇万円を地主等に支払い、折衝費用として訴外鶴間に一、〇〇〇万円を支払い、整地代等として一、〇五六万〇、〇四二円を支出し、その他の必要経費を支払うなどして、前記の出資金合計八、三〇六万〇、〇四二円全額を本件事業のために支出した。

4  ところが、訴外鶴間及び同松井は、昭和五〇年一二月頃まで関西電力株式会社と補償金の支払いについて交渉を続けたものの、関西電力株式会社からは結局二、〇二八万円以上の補償金の支払いを受けられる見通しは立たず、本件事業によって利益を挙げることのできないことが判明して、その成功の不能であることが確定した。

5  しかしながら、控訴人及び被控訴人が本件契約を締結して本件事業を行なうこととしたのは、それによって必ず利益を挙げることができるという訴外鶴間の勧めに従ったものであったので、控訴人は、訴外鶴間及び同松井を問責するとともに、同人らに支払った費用の返還又は損害の賠償を求め、昭和五二年九月、訴外松井から右費用返還債務又は損害賠償債務の一部の弁済に代えてその所有する滋賀県彦根市大東町二番四 宅地三三〇・一一平方メートル(以下「本件土地」という。)の所有権の移転を受けたほか、訴外鶴間からは右債務の一部の弁済として昭和五三年一二月三〇日に二〇〇万円、昭和五四年五月三一日に四〇〇万円、同年九月二九日に四〇〇万円の支払いを受けた。そして、控訴人は、昭和五四年一〇月三〇日、訴外松井から代物弁済によって所有権の移転を受けた本件土地を訴外株式会社上野に代金七、〇〇〇万円で売り渡し、右訴外会社から右代金として右同日に七〇〇万円、同年一二月八日に六、三〇〇万円の支払いを受けた。

そして、控訴人は、訴外鶴間から支払いを受けた右一、〇〇〇万円及び右売買代金七、〇〇〇万円の合計八、〇〇〇万円については、控訴人が訴外鶴間及び同松井に対する損害賠償請求等の交渉を委任した弁護士佐々木恭男にその報酬として七〇万円を支払ったほかは、その支払いを受けた都度、すべて被控訴人代理人でその従兄弟の訴外太田貞雄(以下「訴外太田」という。)を介して被控訴人に預託した。

6  したがって、本件事業の終了に伴う残余財産は七、九三〇万円となるところ、これを控訴人及び被控訴人がした必要資金の出資の割合に応じて分配すると、控訴人の取得すべき分は三、八六九万円、被控訴人の取得すべき分は四、〇六〇万円となる。

7  よって、控訴人は、被控訴人に対して、控訴人の取得すべき右残余財産額三、八六九万円から既に被控訴人より仮清算金として支払いを受けた一、四〇〇万円を控除した残額二、四六九万円の内金一、五〇〇万円及びこれに対する本件訴状が被控訴人に送達された日の翌日である昭和五五年一一月二七日から支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因事実に対する被控訴人の認否

1  請求原因1の事実は、否認する。

もっとも、被控訴人は、控訴人から本件事業をその単独の事業として行なうのでそれに必要な資金を融資してほしいとの申し入れを受けたことはある。

2  同2の事実中、被控訴人が四、二五〇万円を控訴人に交付したことは認めるが、その余の事実は知らない。

右金銭は、控訴人が本件事業を単独で行うための必要資金として被控訴人が控訴人の求めに応じて貸付金として交付したものである。

3  同3及び4の事実は、知らない。

4  同5の事実中、被控訴人(その代理人訴外太田)が控訴人からその主張のような金員の支払いを受けたことは否認し、その余の事実は知らない。

もっとも、被控訴人は控訴人から昭和五三年秋頃合計四五〇万円の支払いを受けたことはあるが、これは被控訴人の控訴人に対する合計四、二五〇万円の前記貸付金の一部の返済としてである。また、被控訴人は、本件土地を控訴人から代金三、五〇〇万円で買い受ける契約を締結し、その代金債務中二、一〇〇万円と控訴人の被控訴人に対する前記の貸付金債務中の二、一〇〇万円とを相殺し、残金一、四〇〇万円を控訴人に支払ったことはある。そして、本件土地を代金七、〇〇〇万円で訴外株式会社上野に転売したのは被控訴人であって、控訴人が右の転売をしその代金を被控訴人又は訴外太田に預託したということはない。

5  同6の主張は、争う。

三  被控訴人の抗弁

仮に控訴人と被控訴人との間において本件契約が締結されたとしても、右契約は、単に投機性が強いだけでなく、その事業目的が公益を害するものであって、公序良俗に違反し、無効である。

四  抗弁事実に対する控訴人の認否

抗弁事実は、否認する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  《証拠省略》を総合すると、次のような事実を認めることができる。

1  控訴人は、昭和四九年一〇月頃、知人から紹介を受けた訴外鶴間から、「関西電力株式会社は、滋賀県下その他の地域において土地所有者に補償金を支払うことなく永年にわたって特別高圧架空送電線を架設しており、土地所有者から当該土地について賃借権の設定を受けるなどしたうえ、関西電力株式会社と交渉し、線下補償金の支払いを受ければ、相当の利益を挙げることができる。控訴人において約八、〇〇〇万円の必要資金を用意すれば、自分としても協力する。」などと告げられ、本件事業、すなわち、関西電力株式会社が架設した特別高圧架空送電線下の土地所有者からその土地について賃借権の設定を受けるなどして関西電力株式会社から線下補償金の支払いを受けて利益を挙げることを事業として行うことの勧めを受けた。

2  訴外鶴間から右のような勧めを受けた控訴人は、控訴人一人ではこれに必要な資金を用意できないところから、同年一一月初め頃、知人の被控訴人に右の話を持ち込んで、本件事業を共同して行うことを提案したところ、被控訴人は、これに同意したうえ、控訴人との間において、本件事業の必要資金中六、〇〇〇万円は被控訴人において出資し、その余の資金は控訴人において出資するものとすること、本件事業の遂行自体には控訴人が当たるものとすることとの合意をしたが、それ以上に本件事業による利益若しくは損失の分配又は本件事業終了時における残余財産の分配等について格別の具体的な合意はしなかった(被控訴人は、原審及び当審における本人尋問において、本件事業は控訴人が単独で行ったものであり、被控訴人は控訴人の懇請に応じてその必要資金を控訴人に融資することとしたにすぎない旨を供述し、原審における証人太田貞雄の証言中にもこれに添う部分があるほか、成立に争いがない乙第一号証には、被控訴人が支出した四、二五〇万円が被控訴人の控訴人に対する貸付金である旨の記載があるけれども、その余の前掲証拠によれば、後に認定するとおり、被控訴人自ら又はその意を受けた訴外太田は、本件事業について控訴人から常時協議を受け又は訴外鶴間に会って本件事業の進渉状況を確認し、控訴人が現地に赴いて契約の締結、金銭の支払い等をする際にはこれに同行するなどして、本件事業の遂行に終始関与してきたのであり、他方、被控訴人が支出した資金については、それが貸付金であるとすれば当然なんらかの合意がされて然るべき返済期限や利息等の定めが一切されていないことに鑑みると、被控訴人が単に控訴人の営む事業の必要資金を融資したというにすぎないものとは到底解することができないのであって、被控訴人の右供述及び証人太田貞雄の右証言部分は採用できないし、《証拠省略》によれば、右乙第一号証は、控訴人が後日に至って被控訴人から求められるままに被控訴人の本件事業への出資合計額を明らかにする趣旨で不用意に「借用証」と表示して作成したものであることが認められるから、前記のように認定することの妨げとなるものではない。)。

3  そこで、控訴人は、補償対象地の選定、土地所有者からの賃借権の取得等、関西電力株式会社との補償交渉等の一切をかねてからこの種の事業を手懸けていてこれに精通しているという訴外鶴間及びその配下の訴外松井に委任して行わせることとし、訴外鶴間及び同松井の指示に基づいて、昭和四九年一二月二七日頃には控訴人の弟が代表取締役である訴外大雄建設株式会社の名義を使用して本件補償対象地の所有者の代表であると称する訴外栗林俊彦との間において本件補償対象地について対価五、六五〇万円で昭和五〇年一二月一〇日を期限とし賃借権の設定又は所有権の移転を内容とする土地使用契約を締結して、右同日に三、〇〇〇万円を、昭和五〇年四月三〇日に一、七五〇万円を、同年五月六日に九〇〇万円をそれぞれ右の対価として支払い、また、必要経費又は報酬として昭和四九年一一月末日頃及び昭和五〇年五月頃に訴外鶴間に対し各五〇〇万円を支払ったほか、昭和四九年一一月から昭和五一年二月頃までの間、訴外鶴間又は同松井の指示に従って、時には訴外太田ともども、頻繁に現地に赴いて訴外鶴間又は同松井と本件事業の遂行について協議するなどし、さらに、関西電力株式会社との補償金支払交渉を有利に進めるために、訴外大雄建設株式会社が本件補償対象地に娯楽センターを建設する予定であるとして整地その他の土木工事をするなどして、これらの旅費等、測量調査費、整地費その他の諸費用として少なくとも合計一、四五〇万円を支出した。そして、本件事業のために支出された以上の八、一〇〇万円中、四、二五〇万円は被控訴人が出資したものであり、その余は控訴人が支出したものである(ただし、これらの事実中、被控訴人が四、二五〇万円を控訴人に交付したことは、当事者間に争いがない。)。

4  このようにして、訴外鶴間及び同松井は、訴外大雄建設株式会社が本件補償対象地について賃借権又は所有権を有するものとして、昭和五〇年一二月頃まで右訴外会社の代理人として関西電力株式会社と補償金の支払いについて交渉を続けたが、関西電力株式会社においては二、〇二八万円以上の補償金の支払いには応じなかったため、結局、本件事業によって所期の利益を挙げることはできないことが明確となった。

このような事態に立ち至った控訴人は、訴外鶴間や同松井に欺罔されて既に支払った費用等を詐取されたのではないかとの疑いを持つようになり、被控訴人とも協議したうえ、昭和五一年二月頃、関西電力株式会社との補償交渉についての訴外鶴間及び同松井に対する前記の委任を解除して、本件事業のために支払った費用の返還又は損害の賠償を同人らに求めることとした。

5  このようにして、控訴人は、同年七月八日に訴外鶴間及び同松井に対して損害賠償金五、六五〇万円を昭和五二年六月三〇日までに控訴人に連帯して支払う旨を約させ、また、これとは別に昭和五一年七月一八日に訴外松井に対して損害賠償金二、三五〇万円を昭和五三年一二月末日までに控訴人に支払う旨を約させ、弁護士佐々木恭男に訴外鶴間及び同松井からの右損害賠償金の取り立てを委任するなどして、本件事業のために支出した費用等の回収に務めた結果、昭和五二年九月、訴外松井から前記損害賠償債務の一部の弁済に代えて訴外大雄建設株式会社名義で訴外松井の所有する本件土地の所有権の移転を受けることを約して、同月二一日その旨の所有権移転登記を受け、また、訴外鶴間からは右債務の一部の弁済として昭和五三年一二月頃から昭和五四年九月頃までの間に合計一、〇〇〇万円の支払いを受けた。そして、控訴人は、同年一〇月三〇日、訴外松井から代物弁済によって所有権の移転を受けた本件土地を訴外株式会社上野に代金七、〇〇〇万円で売り渡し、右訴外会社から右代金として右同日に七〇〇万円、同年一二月八日に六、三〇〇万円の支払いを受けた。

そして、控訴人は、株式会社上野から支払いを受けた右売買代金合計七、〇〇〇万円については、その都度、訴外太田を介して被控訴人に預託し、また、訴外松井から支払いを受けた右一、〇〇〇万円については、そのうち七〇万円を弁護士佐々木恭男に対する報酬として支払い、同年一〇月二六日に六三〇万円を訴外太田を介して被控訴人に預託したほか、同年九月一日、本件補償対象地をめぐる仮処分申請事件について供託してあった保証金二〇〇万円の還付を受けて、これを訴外太田を介して被控訴人に預託した。もっとも、被控訴人は、その後、控訴人から預託を受けた右合計七、八三〇万円中の一、四〇〇万円を仮清算金の支払いとする趣旨で控訴人に支払った(被控訴人が控訴人に対して右一、四〇〇万円を支払ったこと自体については、当事者間に争いがない。なお、被控訴人は、原審及び当審における本人尋問において、本件土地は被控訴人が控訴人から代金三、五〇〇万円で買い受けたものであって、これを訴外株式会社上野に売り渡したのも被控訴人であり、また、被控訴人が控訴人から受領した金銭は被控訴人の控訴人に対する合計四、二五〇万円の前記貸付金の返済としてである旨を供述し、原審における証人太田貞雄の証言中にはこれに添う部分があるほか、成立に争いがない乙第二号証には、訴外大雄建設株式会社が本件土地を代金三、五〇〇万円で被控訴人に売り渡したとの記載がある。しかしながら、《証拠省略》によれば、控訴人は、訴外松井から本件土地を代物弁済によって取得した後、これを代金九、〇〇〇万円で他に転売するべく訴外松井をして現地の不動産業者である訴外旭土地開発株式会社に売却の媒介方の依頼をさせるなどしてその転売に奔走し、その媒介によって訴外株式会社上野との間の本件土地の売買契約を締結するに至ったものであることが認められるのであって、被控訴人は右売買契約の締結に直接には関与していないし、そもそも本件土地を代金九、〇〇〇万円で転売しようとしていた控訴人がわずか代金三、五〇〇万円でこれを被控訴人に売り渡すことにしたとは考えられないところである。さらに、控訴人が訴外太田を介してした被控訴人との金銭の授受についても、《証拠省略》によれば、訴外太田は、控訴人とのこれら金銭の授受の都度、それが確定的な金銭の授受ではないことを示す趣旨で「預かり証」を作成して控訴人に交付していることが認められるほか、本件事業のために自らも少なくとも三、八五〇万円を出捐している控訴人が、もともと利息等の定めがされていないにもかかわらず、訴外鶴間及び同松井から漸く回収した合計八、一三〇万円の大部分をそのまま被控訴人に対する四、二五〇万円の貸金及びその利息の債務の弁済として任意に支払ったとは到底考えられないところである。したがって、被控訴人の右供述及び証人太田貞雄の右証言はたやすくこれを措信することができないし、《証拠省略》によれば、右乙第二号証は、当時たまたま他の不動産を売却したことのある被控訴人から不動産の買換えによる特例として税務上の特典を受けることができるようするために本件土地を被控訴人が訴外大雄建設株式会社から買い受けたものとする売買契約書を作成してほしい旨の依頼を受けて控訴人が作成したものにすぎないことが認められるのであって、右乙第二号証も、前記の認定を妨げるものではない。)。

二  以上のような事実関係の下において本件契約の法律的性質について検討すると、控訴人と被控訴人は、双方がそれぞれ金銭を出資して本件事業を共同して営む旨の合意をし、その際、本件事業の遂行自体には控訴人が当たるものとすることを約したというのであって、先に認定したような一連の経緯に照らすと、その趣旨とするところは、単に本件事業の遂行のために必要な労務を控訴人において提供するというにはとどまらず、本件事業の目的達成のために必要な財産は対外的にはすべて控訴人の単独所有とし、本件事業のためにする法律行為は専ら控訴人の名において行うこととし、被控訴人が表面に出ることはしないという形態において本件事業を営むとするにあったものと解するのが相当である(控訴人は、当審における本人尋問において、訴外鶴間や同松井に対して被控訴人をスポンサーとして紹介した旨を供述するが、それは、正しく右のような実体を示すものであると解される。)。そうすると、本件事業は、外形的には控訴人が単独で営む事業であるかのような外観を呈することになるけれども、この場合においても、被控訴人が本件事業の遂行について控訴人と協議し又は少なくとも控訴人による業務の執行を監視するなどして内部的には本件事業の遂行に関与することを当然に予定していたことは明らかであって、現に被控訴人又はその意を受けた訴外太田は終始本件事業の遂行に関与してきたところであり、したがって、控訴人と被控訴人との間の右の法律関係は、単に控訴人が単独で営む事業に必要な資金を被控訴人が融資したにすぎないものというのではなく、ひとつの組合契約(いわゆる内的組合)にあたるものと解すべきである(なお、控訴人は、その弟が代表取締役である訴外大雄建設株式会社の名義を使用して本件補償対象地についての土地使用契約を締結し、また、訴外鶴間及び同松井に対しても右訴外会社の名において関西電力株式会社との補償交渉に当たらせているけれども、《証拠省略》によれば、それは、被控訴人とも合意のうえで、単に税務上の便宜等を考慮してした措置であるにすぎないことが認められるのであって、控訴人が右訴外会社の代理人として本件契約を締結したというものではないことは、明らかである。)。そして、このようないわゆる内的組合にあっても、その内部関係、とりわけ利益若しくは損失の分配又は組合関係終了時における残余財産の分配については、民法の組合に関する規定がそのまま適用されるものと解するのが相当である。

三  ところで、被控訴人は、抗弁として、本件契約は、単に投機性が強いだけでなく、事業目的が公益を害するものであって、公序良俗に違反し、無効であると主張する。

しかし、本件契約は、関西電力株式会社から補償金の支払いを受けて利益を挙げることを事業目的として締結されたものであるところ、補償対象地の所有者又は賃借人等の使用権者が補償金の支払いを請求すること自体は当然許容される権利の行使であるから、これらの者との間で所有権の移転又は賃借権の設定等を内容とする土地使用契約を締結したうえで控訴人らが関西電力株式会社から補償金の支払いを受けようとすることも、直ちに公益を害するとか、公序良俗に違反するということはできない。

確かに、《証拠省略》によれば、控訴人及び被控訴人が本件事業を営むこととした動機が訴外鶴間から本件事業によって出資金の二、三倍の利益を挙げることができるなどと告げられて法外な利益を挙げうると信じたことにあることが窺われるけれども、それはむしろ訴外鶴間の甘言に乗せられたものというべきであって、本件事業自体が特に投機性のあるようなものではなかったことは、その後の事実経過が明らかに示すところである。また、控訴人は関西電力株式会社との交渉を有利に進めるために本件補償対象地に娯楽センターを建設する予定であるとして整地工事をするなどの詐術的な方法を用いるなど、本件事業の遂行方法には社会的相当性を欠くきらいがなかったとはいえないが、それは、専ら本件事業の遂行過程において、訴外鶴間又は同松井の指示に従ったまでのことであって、右のような本件事業の遂行方法までが本件契約自体の内容になっていたものということはできない。

さらに、控訴人が本件補償対象地について所有者と賃借権の設定又は所有権の移転を内容とする土地使用契約を締結したのは、それによって関西電力株式会社から補償金の支払いを受けることを目的としたものであったことは明らかであるから、右土地使用契約は、これを実質的にみれば補償請求権の譲渡契約とみられなくはない。しかしながら、控訴人は土地所有者らに対して五、六五〇万円という補償請求権の譲渡の対価としては高額にすぎる対価を支払っていることに照らすと、右土地使用契約をもって直ちに補償金請求権の譲渡契約と同一視することは困難であるといわなければならない。

そして、本件における問題は、本件事業の成功が不能であることが確定した後の段階において、当事者間に偏在する残余財産を公平に分配することに裁判所が助力すべきか、それとも本件契約を無効として右残余財産の偏在をそのまま放置すべきかという事後的な処理の問題であることに鑑みると、右にみたような諸事情のみをもっては未だ本件契約を公序良俗に反するものというには足りず、他には本件契約を無効であるとすべき事情を見い出すことはできない。

したがって、被控訴人の抗弁は、失当というべきである。

四  次に、控訴人から委任を受けた訴外鶴間及び同松井は昭和五〇年一二月頃まで関西電力株式会社との補償交渉を続けたものの、二、〇二八万円以上の補償金の支払いを受けられる見通しはなくなり、結局、本件事業によっては所期の利益を挙げることができないことが確定したというのであるから、本件契約による組合は、これによってその目的たる事業の成功が不能となって解散したものというべきである。

そして、本件契約においては利益若しくは損失の分配又は残余財産の分配に関してなんらの定めもなかったのであるから、民法六八八条二項の規定を適用して、残余財産は各組合員の出資の価額に応じて分配すべきものであり、この場合、控訴人は、本来、その出資した金銭のみならず、本件事業の遂行のために提供した労務をも評価して、その価額の割合に応じた残余財産の分配を請求しうるところ、本件においては、控訴人は、単に出資した金銭の割合に応じた残余財産の分配を請求するにすぎず、また、組合財産は既にすべて金銭に換価されていて、他に結了すべき現務その他の残務はないのであるから、このような場合においては、控訴人は、格別の清算手続を経るまでもなく、被控訴人に対して被控訴人がその出資割合を超えて保有している残余財産につき分配の請求をすることができるものと解すべきである。

そうすると、先に認定したとおり、控訴人が出資した金銭は三、八五〇万円、被控訴人が出資した金銭は四、二五〇万円、本件事業の終了に伴う残余財産は八、一三〇万円であるから、控訴人の取得すべき分は三、八六四万二五九二円、被控訴人の取得すべき分は四、二六五万七、四〇七円となり、被控訴人は、控訴人から預託を受けて保有している残余財産六、四三〇万円中の二、一六四万二、五九三円を控訴人に分配すべき義務を負っていることになる。

五  したがって、被控訴人に対して残余財産の分配として右二、一六四万二、五九三円の内金一、五〇〇万円及びこれに対する本件訴状が被控訴人に送達された日の翌日であることが本件記録に徴して明らかな昭和五五年一一月二七日から支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものであり、これを棄却した原判決は失当であって、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消して控訴人の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法九六条及び八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 越山安久 村上敬一)

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